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暗号資産の会計処理

作成者: 東京トークン編集部|2022/05/16

会計の枠組み

本記事の執筆時点(2020年12月)において、日本における現行の暗号資産に関する会計の枠組みは、2018年3月14日に企業会計基準委員会が公表した実務対応報告第38号 「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」において定められています。

(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20180314_02-1.pdf)

この実務対応報告38号では、暗号資産交換業者(取引所や販売所)や利用者(投資家)の処理について定めている一方で、自己の発行した暗号資産の会計処理について(例えば、"企業が対価を得て発行した暗号資産について負債を計上するのか利益を計上するのか"、"自己に割り当てた暗号資産を会計処理の対象とするのか"、といった問題など)は、まだまだ取引の実態とそこから生じる論点が網羅的に把握されていないことを指摘したうえで、以下のように対象から除外することを明示しています。

したがって、自己の発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後暗号資産に該当することとなったものを含む。)については、本実務対応報告の範囲から除外することとした。なお、自己の関係会社により仮想通貨の発行が行われる事例が見られるため、自己の関係会社が発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後暗号資産に該当することとなったものを含む。)も、本実務対応報告の範囲から除外することとした。(※平成30年3月14日 企業会計基準委員会公表:実務対応報告38号26項より抜粋)

つまり、ICOやエアドロップなどに係る会計処理は、未だ明確でないのです。

※なお、国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)においても同様に基準の定めはありませんが、2019年6月のIFRS解釈指針委員会(IFRS-IC)のアジェンダ決定では、暗号資産の保有についてはIAS第2号で「棚卸資産」を適用し、適用されない場合はIAS第38号で「無形資産」を適用するとしています。

ICO(イニシャル コイン オファリング)の会計処理の事例

前述のとおり自己の発行した暗号資産やICOの会計処理については、明確な基準がありません。そのため基準の拠り所にできそうな国内上場企業の事例をあたると、現時点で参照・確認できるのは株式会社メタップス(採用している会計基準はIFRS)1社のみです。

韓国の子会社であるMetaps Plus Inc.で2017年に「PlusCoin(PLC)」という暗号資産を発行し、既に法定通貨と交換可能となっているイーサ(ETH)を対価としてICOによる資金調達を実施しています。発行総数は11.1百万PLC。1ETH=200PLCを基本レートとして発行総数のうち販売目的分についてICOを行い、日本円で約10億円を調達したと言われています。その後、PLC発行時のホワイトペーパーに記載した事業計画が事業環境と合わなくなってきたとの理由から計画を修正した上で、保有者に対して、保有特典を変更した「NPLC」という新しい暗号資産に1:100の割合で交換しています。

※経緯については過去の適時開示や有価証券報告書等で確認可能です。

参考:PLCホワイトペーパー

http://plus-coin.com/pdf/PlusCoin_WhitePaper_en.pdf

上記の経緯からICO時に対価として受けたイーサ(ETH)について、棚卸資産と判断された部分は売却コスト控除後の公正価値、無形資産と判断された部分は取得原価をもって計上されています。相手勘定についてはホワイトペーパーに記載された義務の履行に応じて収益計上されるべきものであるとして、繰延収益として計上されました。

しかし、PLCの保有者特典にかかる義務の履行度合いが明確でなかったために取崩しは行われず、保有者特典の期限等が明示された新しい権利が設定された「NPLC」に交換されたのちに取崩しを行なっています。また、自社発行の暗号資産(PLC,NPLC)については無形資産として取得原価(ゼロ円評価)で計上されています。なお、メタップスはその後もICOコンサルティング事業など暗号資産関連の投資を継続するも、現在ではデジタルアイテムマーケットプレイスでの取引を中心とした「miime事業」を除いて暗号資産事業から撤退しています。

おわりに

近年では各国において金融当局によるICOの規制強化が進み、ICOを行うこと自体が難しくなっているため、会計処理の枠組みの整備も遅れているもの、と考えられます。暗号資産市場においては、一度はチューリップバブルと呼ばれシュリンクした感がありましたが、再び活況を呈している今、ICOの会計処理の整備は急務として求められるところではないでしょうか。

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※2020年5月の資金決済法の改正に伴い「仮想通貨」は「暗号資産」という表現に改められているため、上記テキストでは、「仮想通貨」は「暗号資産」の表現に統一。